ナミダノユクエ

−人は悲しいときやうれしいときに涙を流すのに
 どうしてほかの生き物は涙を流さないの?
私は、かつてそう長老に尋ねたことがあった。
長老は優しく微笑んでこう答えてくれた。
−動物たちは涙を流さないんじゃないんだよ。
 彼らの悲しみの涙は雨や霧になり、喜びの涙は
 虹になるのさ。
−なんで僕らの涙は雨や虹にならないの?
−彼らは、生きて行くために過去を振り返る事はない
 からね。それが強さなんだよ。
 強さを得た代わりに、彼らは涙をながさない。
 でもね、精霊たちはそれを良しとしなかったのさ。
長老は、どこか遠い目をして続けた。
−精霊達は、その代わりに、涙を雨と虹に変えた。
 子を失った悲しみの涙は春の優しい雨に。怒りの涙は
 夏の激しい嵐に。秋の雨は別れの涙。そして、冬の雪
 は彼らが最後に流した涙が。
 ああ、そうだったね。何でわたしらの涙は雨にならな
 いかだったね。
 わたしらは、ほら。とても弱いだろ。
 それはね、ご先祖様が、強さの代わりに涙を選んだか
 らなのさ。
−じゃあ僕が強くなって泣くのを我慢すれば、雨がちょっ
 とは増えるのかなぁ?
−さてねえぇ?泣きたい時は泣くのが一番なのさ。
長老は、目をほそめると、そっと私の頭をなでた。
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